航海記01 医者を志したわけ

実家が医療関係ではない最近の研修医に“医師になった理由”を尋ねると “ERシリーズ”,“救命病棟24時”,“Drコトー診療所”などのテレビドラマに影響を受けたとよく耳にします.テレビドラマに出てくる医師は様子がよく,イケメン(あるいはイケジョ)で正義感が強く優秀に描かれています.少年少女が憧れるのも納得がいきますよね.
私の少年時代には,まだ医療テレビドラマもあまりありませんでした.実家も医療には無関係でした.今では滅多に風邪すらひきませんが,小学3年生頃まではよく熱を出したり,腹痛を起こしたりしていました.いつも同じ診療所に行っていました.幼稚園や学校を欠席して母に連れられて診療所に向かうのですが,いつの頃からか道中にだんだんと良くなっていたことを記憶しています.
先生は白髪頭で無口で、正面に座った私の脈を取りながら眼瞼やのどを診察します.そして一言“すぐよくなる”.実際,先生にお会いすると治った気になっていました.帰り道にはすっかり元気になっていたものです.行く途中から良くなるのは先生への信頼だったと思います.不思議な現象ですが,実際に起こり得ることのようです.私の家族全員がお世話になっていました.
先生は外科出身で現在90歳台になられ閉院されていますが,25年ぶりにお会いした時にも私のことを覚えておられ驚かされました.診察を受ける前から治っていくことが,いつも不思議で漠然と医師を目指したきっかけになりました.その先生を思い出す度に(先生は今もお元気です),医療には信頼関係に基いたコミュニケーションと雰囲気造りがとても大切だと教えられます.

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